秘密保持契約その5

6.秘密情報と知的財産権
秘密情報のやりとりと知的財産権の関係は、2つの側面から考えておく必要があります。まず、秘密情報等の検討の過程で知的財産権の対象となる可能性のある創作物等が生じた場合に、その権利の帰属関係について規定しておくことが考えられます。通常、情報を開示した当事者に帰属することが規定されますが、情報を提供したら相手方に知的財産権が帰属してしまうことのないようにしておく必要があります。また、開示された秘密情報等に基づいて知的財産権が侵害されることも考えられますので、そのような行為は契約で禁止しておく必要があります。
また、場合によっては、開示される情報の中に特許を受けることが可能な情報が含まれていることも考えられますが、特許の対象となるためには、「公然知られた発明」(特許法29条1項1号)に該当しない必要があります。すなわち、特許法は、「産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる」と規定していますが、「次に掲げる発明を除き」とされ特許を受けることができない場合の1つとして「特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明」を規定し、特許の対象から除外しています 。特定の相手方に特許となりうる情報を開示した場合であっても、その者に秘密保持義務が課せられていない場合には、その発明は、公然知られたもの(公知)となると解される可能性が高いため、秘密保持契約を締結することなく、特許となりうる情報(発明)を開示してしまうと、その発明については特許を取得することができなくなってしまうおそれがあります。したがって、特許となりうる情報を開示する場合には、秘密保持契約を締結しておくことが必須となります。